眠らない街・歌舞伎町のお話

突然だが、僕は歌舞伎町が好きだ。むっちゃ好きだ。

といっても一般的に歌舞伎町と聞いて思い浮かべるような、煌びやかなネオン街で浴びるように酒を飲むのが好きな訳ではない。

こじんまりしたゴールデン街のちょっぴり汚い店で、店員の女性や偶然居合わせたオヤジたちと談笑しながらちびちび飲むのが好きだ。

 

目がチカチカするほどの街灯や、路上にたむろし女性を水商売へと引きずり込む黒服にめまいを覚える一方で、以外にもこの街は優しさに溢れている町である。

とくに前述のゴールデン街は肩肘を張らずに寛ぐことのできる、とても気楽な場所だ。

 

店内に入ると30前半ほどの妖艶な雰囲気の女性店員が笑顔で迎え入れ、おやじたちは手を叩いて学生を歓迎してくれる。

女性がこれまた丁寧に注文をとり、一杯目のビールを待っていると、「ボウズ、初めてか?」と隣に座っていたおやじが気さくに話しかけてくれる。

軽いやり取りをしながらしばらくすると、並々注がれたビールがコースターと共に卓に置かれ、乾杯の合図と共に彼らと杯を交わす。

 

楽しい話や彼らの強烈な下ネタ(本人たちは日常会話程度に感じているだろうが)に抱腹絶倒しつつ、つまらない話は眉ピクひとつせず真顔で、ただただ温和な時間だけが流れていく。

時計に目をやると気付けば深夜の2時。本心から楽しかったという言葉を発し、会計を終え離席すると、またこいよ!と声を掛けられ、笑顔で店を出る。

 

 

この街はやっぱり汚い街だ。所々に吐しゃ物が放置され、セクキャバからは禿げたおっさんが現れ、偶然入った店もなんだかカビ臭い。

けれど、その汚さがどこか心地よい。この街は優しい街なのだ。